何かトラブルがあった時すばやく適切な対応が出来るか否か
映画の主人公が危険な局面をさまざまな機転を利かせ
乗り越えていく姿はやはりカッコイイし憧れてしまいます。

しかし現実は目の前で起こった事に動揺してしまい
オロオロするばかり
己の不甲斐なさに打ちのめされる毎日
そんな失意の中で事件は起こります。

夜、車を走らせていてふと歩道に目をやると
男性が横たわっているのを発見
「・・え？・・」と思いバックミラーで確認
街灯がなく人通りも少ない道で
わずかに携帯の明りだけが光っている
「おい、おい、おい」
酔い潰れているにしては時間帯が早すぎる
具合が悪く倒れてしまい意識もうろうとする中
携帯で必死に助けを呼ぼうとしているのか？
しかしその場合どうしたらいいんだ？
応急処置や適切な対処法などまったく分からないぞ
いや、そんなことはどうでもいい
とにかく放っておくのはマズイ！

急いで引き返し車から降りて男性のところへ駆け寄り
恐る恐る声をかけます
「あの・・大丈夫ですか？」
すると横たわっていた男性は驚いた様子で顔を上げ
「え・・いまネジを締めてる・・」
「・・・は？・・・」
実はこの男性、車の出入りに必要な
段差プレートを設置している業者さんで
暗い中、携帯の明りを使って作業していたようです
「すいません、失礼しました・・」

意を決して行動したにもかかわらず見事なまでに空回り
まったくみっともないったらありゃしない
言わせてもらうならば業者さんも時間外労働でお疲れなのは分かるが
くつろぎすぎだろう、紛らわしい・・・
まあ、何もなくて良かったけれど・・・
と心の中だけで呟くのでした。

家にいても、おちおちしていられない
台所で嫁さんと娘が何やら騒がしい
どうやら使おうとしていたシナモンパウダーの賞味期限が切れている様子
一日でも過ぎていれば絶対に口にしない脆弱な神経の者たち
必然的に期限切れの食品はお父さん用というカテゴリーに移されるが
今回はどうしてもシナモンが必要らしくこちらの判断を仰ぎに来たのだ
この家で処理班の役割を担っている私が動かない訳にはいかないだろう。

「うろたえるな二人共、期限が切れてどれくらいなんだ？」
「え～っと・・７年・・」
「・・７・・７年！・・・」　
２５５５日である。
しかし、戦争を経験し厳しい時代を生き抜いてきた
祖父さんの背中を子供の頃から見てきた私がうろたえることはない
古くなった食材でも大丈夫だと言って粗末にすることを許さない人でした。
（とはいえ食あたりで苦しんでいる姿を何度も見ていますが）

まず、シナモンパウダーの小瓶を手に取る
見た目も香りも問題ない
指につけて舐めてみる
「うん、いける！」
その瞬間
「嘘だ！」
と食い気味に返事
「やっぱり信用できない」
と捨て台詞を吐いて買い物へ出かける二人
まったく脆弱なことこのうえない。

小瓶に入った中身の半分も使う事なく７年放置していた
この家にはたしてシナモンパウダーは必要なのか？
そもそもこんなもったいない事をするお前たちに
シナモンパウダーを扱う資格などない！
と心の中だけで呟くのでした。
長谷部